『お人形』 七歳
こんな夢を見た。
「おねえちゃん」
ふり向くと、ミミちゃんがいた。
「ミミちゃん、しゃべれるの?」
私は驚いて、いや正確には驚いたふりをして言った。
ミミちゃんは、赤ちゃんの姿をしたぬいぐるみである。実は、ミミちゃんがしゃべれることぐらい、私にはちゃんとわかっていた。何か特別な理由があって、めったに話せないことも、知っていた。しかし、少しぐらいびっくりしてあげないと、ミミちゃんはつまらないだろうと思ったのである。
私は、いつものようにミミちゃんを抱き上げて頬ずりした。ミミちゃんは、私の首に腕を回しながら言う。
「おねえちゃん、けっこんするの?」
「うん、二十さいになったらね」
言ってから、なにかミミちゃんにすまないような気がしたので、急いでつけ足した。
「そいでね、赤ちゃんはミミちゃんなの」
「うん、いいよ。わたし、おねえちゃんの赤ちゃんになる」
ミミちゃんがにこにこしたので、私もにこにこした。
「赤ちゃん、たくさんうむの。パティーちゃんと、パンダちゃんと、ドールちゃんと、ペコちゃんと、ペットちゃんと、ララちゃんと・・・」
私は、家じゅうのお人形やぬいぐるみの名前を挙げた。
「ずっと、いっしょなの。いつまでもみんないっしょ」
ミミちゃんは、そう言うと私のひざからおりた。そして、トコトコと歩きだした。部屋をぐるりとまわり、出ていった。
その姿を見送りながら私は、どうしてふり返らないんだろう、と思った。遠ざかっていくはずのミミちゃんが、なぜか自分よりもずっと大きく見えた。
《了》