以前は、幸せだったような気がする。暖かい陽を浴びながら、葉っぱの上でふくふくと暮らしていた。毎日、たくさん食べていた。
 なぜあんなに食べることができたのだろう。なぜあんなにおいしかったのだろう。

 今は、何も食べられない。身動きもできない。何も見えない。何も聞えない。醜くなったような気さえする。以前そばにいた花も虫も鳥も、みんな自分のことなど忘れてしまったに違いない。
 なぜこんな姿になったのだろう。ずっとあのままでいたかったのに。
 夢を見た。自由に動きまわっていた。しかし、葉っぱの上ではない。葉っぱはどこだと探したが、天色の空気しか見えなかった。
 何度も同じ夢を見た。そのたびに、葉っぱを探した。そして、目が覚めるとやはり闇の世界にいるのだった。
 ある日、葉っぱを探すのをやめた。何も考えず、天色の空気に身をゆだねた。
 目が覚めたとき、透明な風を翅に受けながら天空を飛んでいた。遥か下に、小さな緑の繁みが見えた。



                            《終》