三毛猫ダンス

　女がいた。三毛猫と一緒に暮らしていた。いつから一緒にいるのか、すぐには思い出せない。ただ、十年前を思い出しても、二十年前を思い出しても、かならずその三毛猫がそばにいた。


　女は、年をとった。三毛猫も年をとった。そして、日に日に小さくなっていった。
　女は毎晩、三毛猫を抱いて寝た。朝になると、三毛猫は早々目を覚まし、女を起こした。


　ある日、二十歳ぐらいの娘が現れた。白いＴシャツに黒いキュロットを穿いている。浅黒い肌に、肩を覆う黒髪が柔らかそうだ。変わったネックレスをしていると思ったら、革をはっていないタンバリンだった。
　娘は、にゃあという顔で笑った。それを見て女は、自分が猫を抱いているのを思い出した。とたんに、その腕から三毛猫が飛びだし、パンコパンコと踊りだした。女は、なぜだかとてつもなくうれしくなって、一緒にとび跳ねた。
　タンバリン娘は、ますます笑った。笑いながら踊った。両手を振り手足をあげ、リズムをとった。何か言っているようだが、歌っているのかもしれなかった。
　鈴の音がする。このタンバリンは、ずいぶん細い音で鳴る。いつだったか、この音を聞いたことがある。それがいつのことだったのか思い出す前に、女は気がついた。
　あれは、タンバリンではない――
　娘に話しかけようとしたが、人の言葉か猫の言葉か、どちらを使おうか迷った。しかし、すぐに言葉などいらないと思い直した。言葉を発したとたん、何もかも消えてしまうような気がした。


　明け方、女は目を閉じたまま、猫をなでていた。
　猫は、踊り疲れたように眠っていた。

《終》