『お迎え』　19歳 


　こんな夢を見た。

　私は、部屋の掃除をしていた。
　気がつくと、その人は、廊下に立っていた。オレンジ色の陽を浴びるその顔は、どこか寂しげだったが、澄んだ目をしていた。
「迎えに来たよ」
　その人は言った。確かに私は、どこかへ行くつもりでいたらしい。そのために、長年住み慣れた部屋を片づけているのだ。しかし、私はその人を知らない。どこかで会ったような気もするが、思い出せない。
　机やベッドや本棚、箪笥、お人形、その他たくさんの物が、ここにある。少女時代を過したこの部屋を捨てて、見知らぬ人と行ってしまっていいのだろうか。
　彼はコートを脱がず、部屋にも入らない。静かに私を待っている。今、一緒に行かなければ、ひとりで行ってしまうだろう。
　私は廊下に出た。頬が熱い。不安とも恐怖ともつかない感覚に襲われた。なんだかわからないが、ただひたすらこの人のそばにいたいと思った。
　彼が差し出した右手に、自分の左手をあずけると、彼は消えた。同時に私も消えた。

《了》