教　育　者

　私は、小学三年生から卒業まで、劣等生としてすごしました。できない者、劣る者に対して、まわりがどういう態度をとるか、よく見てきました。担任が率先して、私を侮辱していました。他の児童は、「いじめ許可証」をもらったかのようにその行為を正当化し、生き生きと私をいたぶりつづけました。
　そんな担任だって、教員免許を持っているというだけで、「教育者」と呼ばれるのです。家へ帰れば、妻を持つ二児の父でした。それら家族の前では、よき夫よき父なのでしょう。しかし、私から見れば、面白半分によその子を血祭りにあげつつ手に入れたお金で、家族を養っていたのです。
「うちの子供なら、こんなもの簡単に出来るのに、おまえバカじゃねーの。バカは死ななきゃ治んねーな」
「バカのくせに」
「バカが何言ってやがる」
「おい、みんな、零点バカが来たぞ」
「カッコ悪ぃな、おまえ」
「ダセー服、貧乏人」
「ブス！」
「大根足！」
「死ね」
　こんな罵詈は、しょっちゅうでした。加えて、なにか気に入らないことがあると、
「お前のツラを見てると、ムカつく」
などと言い、殴ったり蹴ったりするのでした。
　ついでに私の家族までも、いやらしく侮辱しました。そして、私以外のクラス全員が、この「楽しいユーモア」で湧き上がったのです。私が不満な顔をしていると、
「みんなの楽しみをシラケたツラでぶち壊しやがって」
と、またぶちのめすのでした。
　しかし、それを見ていない人々は、私の言葉を信じませんでした。（普通はそうでしょうね）
「先生（教育者）がそんなことをするわけない」
と言うのです。そして私は、邪推深い僻み根性による被害妄想のうそつきにされるのでした。
　その担任はよく、私達の前で、他の先生を口汚く中傷しました。でも、本人たちの前では、米搗きバッタよろしく、ペコペコしていました。賢く要領のいい人間だったのです。

　学校行事で集まる母親たちも、私を排斥しました。親子レクなんかあると、それが露骨でした。
　私は母に、
「学校へ来ないで」
と言いました。自分は慣れているけれど、母には耐えられない屈辱だと思ったからです。この言葉に母はきっと悲しんだと思います。親である自分を疎んじているのだと、寂しく思ったことでしょう。
　母は、学級懇談には一度出たきり、二度と行きませんでした。あとで聞いたのですが、そのときすでに、担任や母親たちから意地悪されていたそうです。よその母親たちは、先生に逆らえば、自分の子も同じめにあわされるだろうと踏み、私や私の母を便乗侮辱したのです。自分の子の安泰のためならば、よその親子がどんなめにあおうと、知ったことではないのです。

　中学、高校と進み、行動範囲が広がるにつれ、私は、自分と同じようなめにあっていた人々にも、会いました。
　そして、就職してから出くわしたのです。ストレス解消と称し、小学生を泣かせて楽しむ同僚の教員に。
「自分の子はかわいいに決まってるけど、よそのガキなんか、まとめてぶん殴ってやりたい」
と吐き捨てる教員もいます。いずれも、その教員本人より聞いた話です。それも、一人や二人ではないのです。冗談や謙遜などでないことは、その人自身や授業を見てわかります。
　なにゆえそんな人物が、子どもに携わる職に就いているのかは、私にもわかりません。
　ただ、子ども嫌いにもかかわらず、こうした職種に就いている人は、（良し悪しは別にして）珍しいとは思いません。自分の子ども時代を振り返っても、「児童・生徒撲滅」を誓ったとしか思えないような教員は、多くいましたから。
　しかし世の中には、立派な（せめてまともな）先生にしかめぐり会わなかった人も多いとみえ、やはり私を理解してくれる人は、少ないのです。

三年生担任　女（勤続五年）